ヤギはにがくてまずい

実はしまうまよりガゼルの方がうまいらしいよ

岸田文雄と万歳三唱しよう(国会解散見学ルポ2021)

時は2021年10月14日。永田町に

2人のオタクが結集していた。

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かっこいい

 

……こちらの、踊るさんま御殿みたいな構図の好青年は僕ではない。

 

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アイコンは「オモコロアイコンジェネレータ」にて作成

 

どうも。しまうまうましです。マジでラフな格好で国会行ってきたんですけど周りはみんなちゃんとめかしこんでたんですっげー恥ずかしかったです。

 

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「解散」のフリー素材

ということで、スーツを着込んだおっさんおばさん465人が万歳すると同時に無職になるイベント、衆議院の解散に行ってきました。

 

この記事は国会をわざわざ見学してやろうという奇特な人間のための備忘録としても、オタクのヒマツブシとしても役に立つ予定です。

 

そもそも国会の解散とは?

そもそも国会の解散とはなんぞや?という疑問を持っている方も多いと思うので、ここでは軽く解説を挟もうと思う。

 

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あたらしい憲法のはなし(出典:青空文庫

 

衆議院の解散は憲法7条と69条に規定されている。

 

まず憲法69条。

 

内閣は、衆議院不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

 

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対立

要するに、内閣と議会の意見が食い違ったときは、内閣か議会のどっちかを新しく作り直しましょうという規定である。この規定に基づく解散は政治学オタクから「69条解散」と呼ばれている。

 

ただし、憲法69条に基づき内閣が総辞職もしくは衆議院が解散することは日本憲政史ほとんどない。というのも、日本の国会はほとんどの場合自由民主党が多数を占めているので、自民党が分裂しないかぎりは内閣(もちろん自民党の総裁が首相を務めている、村山富市などの例外を除けば)が不信任を叩きつけられることはないのだ。

 

裏を返すと自民党が分裂した際には69条の規定が利用されることもあり、55年体制下では1980年と1993年に不信任案が可決されている、とか、野党から内閣不信任案が提出されて審議が長引くのを避けるために与党が自ら内閣信任案を可決することもある……などのどうでもいい知識もあるが、ここでは割愛するので興味のある方は調べてみてほしい。

 

続いて憲法7条。

第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。

一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。

二 国会を召集すること。

三 衆議院を解散すること。

(以下略)

 

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ヨーロッパではポッキーが「ミカド」と呼ばれている

要するに、天皇の国事行為として国会を解散することができるのだ。

 

天皇は内閣の助言と承認に基づき国事行為を行う、国事行為には衆議院の解散が含まれる、よって内閣は衆議院を解散できる。理想的な三段論法である。

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国会議員って失業保険を受け取れるのかな

決定の主体は内閣であり、内閣は全会一致で意思決定を行うことが慣習となっているが、憲法68条によれば首相が国務大臣を自由に罷免することができるので、反対する閣僚を全員クビにすればよく、2005年に小泉純一郎が実際そういうことをしている(余談だが、歴史上首相がすべての大臣を務める1人内閣が成立した例もある。一瞬だけの話だけど)。

 

つまり、憲法上は、首相がその気になればいつでも天皇に頼んで国会を解散してもらえるということになっている。

 

この規定に基づく解散は政治学オタクから「7条解散」と呼ばれている。

 

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出典:岸田文雄公式サイト

で、現首相であるところの岸田文雄氏が憲法7条に基づいて衆議院を解散しようとしているので、それを見に行った、というのがこのブログ記事である。

 

予約をしにいく

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日本の中心

ということで10月14日午前9時、我々は永田町にやってきた。

 

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さながら議員秘書のよう(実際秘書らしき人も見学に来ていた)

 

こちらは同行者のI氏。都内の国立大学で建築を学んでいる。

 

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汚職政治家に金をたかる三下

 

こちらは僕。京都大学で経済学を学んでいる。

 

2人は麻布高校の同期で、それぞれ予算委員会(生徒議会のようなもの)に所属していた。

 

余談だが、国会の予算委員会財務省理財局長の佐川氏が野党議員に詰問されているころ、麻布学園予算委員会監査局長=僕も、I氏を含めたコンプライアンスを重視する議員に厳しく詰問されていた。こう言ってよければ佐川氏の答弁に同情していた記憶がある。

 

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ここで傍聴を予約する

2人で衆議院面会受付所に行く。いかにも衆議院の傍聴が予約できそうな場所はいくつかあるのだが、実際はここでしか予約できない。国会議事堂前駅1番出口にほど近いところにあるが、わからなければ無数に立っている警備員に聞くのが早い。この建物に来る人間は全員国会を見学しようとする奇異な人間なのかと思うと、さながらコミケの待機列のような圧迫感を覚えた。

 

行く途中で、観光バスからぞろぞろと降りてくる小学生たちに出会った。どうやら見学に来たようだ。とってもいい日に見学に来たものだなあと後方両親面をしていると、引率の教員が「気持ちが悪い人いませんか~?」と小学生に聞いていた。確かに僕はキモオタかもしれないがあんまりじゃないか、と思った。

 

面会受付所で名前を記入する(写真を撮りたかったのだけれど撮影禁止だった)。僕たちの前には約10人が名前を書いていた。係員の説明曰く、会議は11時50分から参加者を1人ずつ呼んでいくからそれまでにはここに戻ってこいとのことだったので、実際はもう少し遅く行ってもよかったかもしれない。

 

……というわけで、若者が暇をつぶすには最も向かないであろう場所・永田町で、我々は待ちぼうけを食らってしまった。

 

国立国会図書館で暇をつぶす

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マジでなんでもある

 

というわけで、我々は近くにある国立国会図書館にやってきた。

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出典:朝日新聞から誰かが持ってきてブログに貼った画像をAIで拡大した

 

国立国会図書館はマジでなんでもある図書館だ。マジでなんでも引き取ってくれるうえに、定価の半分くらいお金を出してくれるので、意味のない記号の羅列が書かれた本を定価64800円と銘打って納本した人もいる。それぐらい蔵書の幅が広いということだ。文系の学生なら一度はお世話になるかもしれない。

 

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下にあるのはゲーセンのICカード

 

入場には利用カードが必要なので、登録ののち入場する。I氏は一度インターネットでの資料請求を利用したらしく既に登録されていた(さすが好青年)。入場には事前予約が必要らしいが、手ぶらでいっても午前11時までは入場できるので問題はない。

 

I氏が構造力学の勉強をするなか(さすが好青年)、僕は以前から読んでみたかった80年代の雑誌『ビックリハウス』と、オタク雑誌『ユリイカ』のバックナンバーを請求した。国会図書館には開架図書がほとんど存在せず、端末から欲しい本を検索して取り寄せる必要があるのだ。届くまでのあいだは資料館でNBC兵器(核、生物、化学兵器のこと)についての本を読んで暇をつぶした。厨二病かつ懐古厨の読書である。

 

図書を受け取るカウンターは市役所のそれくらいバカでかくて、その後ろに、大量の注文された本や蔵書のある階へのエレベーターが鎮座している。イメージとしては都心部の地下にあるすげー駐車場に近い。入り口が一つしかなくて車が自動的に運ばれるやつ。本を棚から出して渡すということに特化したデザインになっていて、なんだかかっこよかった。働くのちょっと楽しそう。

 

で、注文した『ビックリハウス』と『ユリイカ』を受け取った。

 

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集編任責里重井糸

 

ビックリハウスは"パルコ出版"から出ている雑誌で、"糸井重里"がコーナーを企画し、同じ誌面に"YMO"や"村上春樹"が取り上げられている……となると、サブカルオタクとしては読まざるをえないと感じたのだ。私の目当ては、その糸井重里が編集しているコーナー『ヘンタイよいこ新聞』である。このコーナーは読者投稿が中心で、紙媒体でTwitterみたいなことをしようとしたらどうなるか、という感じのコーナーである。毎号毎号バカバカしい短文の投稿ばかりが集まっているのだが、時代が違えはデイリーポータルZやオモコロのライターも投稿していたに違いない。

 

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魔法少女まどか☆マギカ』特集も一纏めにされて貸し出された

 

ユリイカは2011年11月号のやくしまるえつこ特集を借りた。というのも、以前、東大の授業をオンラインで聴講したのだが、その授業の講師(名前を仮にP氏とする)が寄稿しているからだ。P氏はペンネームで講義を行っているが、P氏名義の論文はないかと思ってCiNiiで探したところこの雑誌に行き当たった。

 

……とまあ、ヒマツブシには非常に向いている場所なので、国会見学の際時間が余ったらぜひ国会図書館に行くことをお勧めする。

 

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Cランチ

 

ちなみに、国会図書館には食堂も併設されている。上のパスタセットが650円なので、近所に手ごろな飲食店のない永田町に来た際はここで昼食を食べるのもよいかもしれない。味は普通だった。

 

いよいよ国会を見学する

国会内は残念ながら写真が禁止されているので(当たり前だが)ここからは写真少なめになる。

11時50分。面会受付所には20~30人ほどの老若男がいた。女はほとんどいない。半分は暇な老人、もう半分は政治オタクの学生といった次第である。

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出典:https://moukaru-keiba.com/horseracing_wakuren_hit/

 

受付所にはその日の会議の予定を示すテレビが置いてあり、「議運 12:00」「本会議 13:00」などのように書かれている。競馬の倍率を示すアレ(画像参照)とほとんど同じようなデザインだ。室内のいなたい雰囲気と相まって、受付所はほとんど場外競馬場と化していた。

 

 

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後ろのめちゃくちゃ汚い机はこれまでのオタク活動の集大成である

 

警備服に身を包んだ係員が一人ずつ参加者の名前を呼んでいく。名前を呼ばれると参加申込書のようなものを渡されるので机で適当に書く。申込書を係員に渡すと傍聴券とロッカーのカギを受け取れるので、荷物をそこに預けて議場へと向かう。

 

議場に行くためには、金属探知機を通ったあと10人ぐらいのグループに分かれ、外に出て階段を下りて議事堂に入ってからエレベーターを2回上って……という非常にややこしい経路を通る必要がある。さらに、議場に向かう途中で途中で国会議員からの紹介で来た人間(ざっと100人~150人くらいか?)と合流する。当然の結果として、I氏とは一度はぐれてしまったが、議場の係員に言えば連れが来るまでエレベーターの前で待つことができるので問題はない。

 

2回目のエレベーターは1階で乗って4階で降りる必要がある。3階で降りると報道陣が詰めている席に向かうことができるようだ。4階で降りた先には議場内での規則が書かれている。曰く、飲食喫煙をしない、退場は係員の合図ののち行う、大声を出さない……

 

大声を出さない?

 

僕の「岸田文雄とともに万歳三唱しよう」という計画はここで脆くも崩れ去った。まあ当然である。面会受付所の看板には「示威行為を禁じる」と書かれていた。万歳三唱を認めてしまえば「示威行為」と「純粋なバカ騒ぎ」のどこかに線を引いて規制しなければならない。

 

……失望を胸に抱えながら衆議院の会議場へと足を進めた。だいたい12時20分ぐらいだろうか。

 

本会議

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出典:僕のIllustrator

 

 

本会議場は3つに分かれている。1階には議員が、3階には報道陣が、4階には傍聴人が座るといった次第である。

 

我々は傍聴席の左前に座った。有名な議員の顔くらい拝んでやろうと思っていたのだが、重鎮議員は我々の真下に座っているようで見ることができない。その証拠に、報道陣のカメラはみなこちらを向いている。おそらくこの辺りに岸田・安部・麻生あたりが座っているのだろう。

 

そこまで有名でない議員の顔もほとんど判別することができない。議場にオペラグラスを持ち込むことも検討したのだが今回は持ち込まなかった。受付所の係員曰く「オペラグラスを持ち込めるかどうかは警備の人間に聞いてほしい」とのことだったので、もしこのブログの読者の方が国会見学に行く機会があったらぜひ挑戦してほしい。

 

本会議が始まるのは13時だが、開始まではあと30分ほど時間がある。電子機器の類はすべて持ち込み不可なので正直かなり暇である。次行くことがあれば紙媒体のヒマツブシを持ち込もうと思う。結局僕はI氏と政治用語しりとりをして時間をつぶすことにした。かなりの言葉が「う」で終わる(〇〇党、○○省、etc……)ことに気が付いたI氏のワンサイドゲームに終わった。不毛すぎる。

 

開始10分前だか5分前になると予鈴が鳴る。議員がぞろぞろと入ってきた。議員たちは思い思いに雑談しており、高校の移動教室のようだった。まあ議員も人間なので雑談ぐらいするだろう。室内がやや騒がしくなり、我々傍聴席の面々も少し声を大きくして話始める。

 

そして、騒がしい議場は大島衆院議長の入場とともにしん・・と静まり返る。

 

官房長官が紫色の布に包まれた解散詔書を議長の元に運び、憲法第7条に基づく衆議院の解散が宣言される。

 

 

 

万歳!

 

 

 

と1人の議員が口にする。どうやら自民党の若手議員のようだ。

すると、ほかの議員たちも

 

 

 

万歳!

 

 

 

……というようなやり取りが3度続いたのち、議員たちは三々五々で議場を後にした。

係員が傍聴人に対して帰るように促す。

我々も議場から出た。

 

というように、めちゃくちゃあっけなく終わった。

 

 

おわりに

以上が衆議院解散見学ルポである。会議が始まってから解散するまでは5分とかからなかった。

大人が昼からぞろぞろと集まって万歳三唱して全員無職になるわ、それを物好きなオタクたちが昼から見物しているわで、なんだか白昼夢めいていた。

が、それでいいのかもしれない。というのも、解散を見終えたのち、僕はある事実を確認した。それは「儀礼によって政治の正当性が担保されている」という事実である。

 

以下はあくまで僕の意見だ。

 

カイヨワというフランスのおっさんが「遊び」を4つに分類しているのは割と有名な話だ。ざっくり要約すると、彼曰く遊びとは「運試し」「競争」「ままごと」「スリル」の4要素の組み合わせなのである。

で、衆議院の解散とそれに続く選挙戦というのは、この4要素をうまくミックスさせている。

選挙戦はもちろん「競争」である。だれが勝つかわからない「運試し」でもある。ダルマの目を黒く塗ってみたり、演説してみたりというのは「ままごと」に近い。沈黙を破って万歳三唱することは身体的な「スリル」を伴う。

要するに、政治というのはものすごい大規模な「遊び」なのだ。

 

で、わざわざ大の大人がおふざけに身を投じるからこそ、政治というのは国民を統御する正当な仕組みとして承認されるのだと僕は思う。なぜなら、バカバカしいおふざけを強制されるということ自体が、"政治"という存在がいかに偉大であるかを衒示するのにとても役立つからだ。

 

今行われている一連の儀式は、神権政治でもなくカリスマによる支配でもないこの国で、政治システムが正当性を得るための祝祭であり、その衆議院解散オープニングセレモニーはなるったけ豪勢に行うべきなのだ。

 

、いうことを感じた一日であった。

 

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国会前にて撮影

 

お土産には岸田文雄チョコクッキーを買った。

 

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1100円(税込)

 

このバカバカしさも政治の正当性を担保しているのかもしれない。

今度京都に持っていくので欲しい人は連絡してください。

 

(おわり)